カンボジア、ミャンマー等で数千人の台湾人が拉致被害に。事件の詳細、背景、今後の国際関係は?

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カンボジア、ミャンマー等で数千人の台湾人が拉致被害に。事件の詳細、背景、今後の国際関係は?

 

2022年8月、台湾社会を震撼させたニュースがありました。

数千人の台湾の若者が東南アジアで拉致被害に遭っていることが発覚したのです。

犯人はカンボジアやミャンマーに拠点を置く華人系マフィア。

台湾メディアによると「新型コロナウィルス」「一帯一路政策」「新南向政策」などの歪(ひずみ)により生じた事件だとも解釈されており、国際人権団体やアジア各国(台湾、香港、マレーシア、シンガポール)を巻き込む国際問題に発展しています。

この事件は日本ではほとんど報道されていませんが華人社会(台湾、香港、マレーシア、シンガポール)では大きく報道されており今後のアジア関係を理解するためには知っておくべきです。

 

犯罪の内容

マフィアは華人であり拉致のターゲットは中国語話者です。

外国政府が介入しにくいカンボジアやミャンマーに拠点を置き比較的裕福な華人を対象に詐欺を行なっているのです。

まず、マフィアはネット上の求人広告やSNS(主にインスタやTikTok)で月収100万円以上の求人の募集をかけます。

動画で東南アジアでの華やかな生活をアピールしスキルや語学力がなくても短期で大きく儲けられることを宣伝します。

ビザや航空券は会社が全て手配すると伝えとにかくハードルが低いことをアピールします。

こうして現地の空港に到着した台湾人を送迎車に乗せパスポートとスマホを没収しマフィアのアジトに拉致するのです。

アジトは警備がしっかりいていて脱走することが不可能な構造になっています。

台湾人はここで朝から晩まで台湾人を相手に詐欺(振り込め詐欺、恋愛詐欺)に従事させられます。

詐欺の業績が悪いとリンチされ女性はレイプされます。

抵抗するものは他の人身売買グループに売り飛ばされ臓器を摘出されます。

数百万円単位の金を払うと帰国させえもらえることもあります。

また、台湾人を複数人騙して連れてくると解放(帰国)させてもらえるケースもあります。

多くは友人を騙すことになるため友達の誘いということで友人も簡単に信じてしまうのです。

 

台湾人だけでなく香港人やマレーシア人も拉致被害に

当初マフィアグループは中国人を拉致していましたが、コロナ対策により中国が鎖国をしたため中国人を誘拐することができなくなってしまいました。

よってマフィアグループは拉致のターゲットを台湾人に絞ったのです。

また、同じく中国語話者であるという理由で香港人やマレーシア人も被害に遭っています。

 

犯罪が起きた背景

マフィアの拠点は以下の場所にあります。

  • シアヌークビル(カンボジア)
  • ミャワディ KK園区(ミャンマー)

シアヌークビルは中国政府が推進する「一帯一路政策」のアジアにおける最重要拠点です。

中国企業が多く進出しておりカジノやホテルなどのビジネスが盛んな都市です。

(統計ではシアヌークビルの企業の9割が中国人経営者)

しかし、2019年にカンボジア政府がオンラインカジノを禁止しそれによりカジノの業績が行き詰まりました。

また、新型コロナにより観光業も立ちいかなくなりました。

これら要因が重なりシアヌークビルで詐欺事業が大きく育ったと言われています。

一方、ミャワディはミャンマー南部の都市でありタイとの国境に位置します。

この地域はマフィアの管理下にありミャンマー政府も介入できません。

マフィアにとって利用価値のない人(詐欺の業績が悪い、抵抗する等)はミャワディに売られ臓器を摘出された上で殺害されます。

詐欺グループ間での最終地点としてミャワディは存在するのです。

 

救出活動

台湾政府はタイ政府と協力しカンボジアからミャンマーに移送される途中の台湾人の救出を行なっています。

また、カンボジアは台湾と国交がなく親中国であることから当初は台湾政府からの連絡に応えませんでしたが、現在はカンボジア政府や警察が捜査を始めています。

他、台湾政府は詐欺グループが投稿したと思われるネット上の求人広告や動画を削除したり、台湾の空港にてカンボジア行きの旅行者を説得するなどの対策を進めています。

しかし、2022年1月から6月までにカンボジアへ向かった台湾人は数千人にのぼり現状では数百人しか帰国できていません。

いまだ劣悪な環境で強制労働されている台湾人がたくさんいると言われています。

 

旅行者も被害に遭っていることが発覚し、東南アジア旅行を避ける傾向が強まる

7月にはカンボジアを一人で旅行していた27歳のマレーシア女性が街中で食事中に誘拐されています。

この女性も中華系であり中国語ができるため詐欺グループのアジトで台湾人相手に詐欺をさせられていました。

(この女性は現在は救助されているようです)

この通り、旅行者であっても安全とは言えず、華人の国(台湾、香港、マカオ、マレーシア、シンガポール)ではカンボジアやミャンマーを避ける傾向が強まっています。

今後海外旅行の制限が完全に撤廃されたとしてもカンボジアやミャンマーを旅行する人は増えないでしょう。

 

今回の事件で浮き彫りになった台湾の課題

①若者の低収入

半導体産業を中心に台湾経済は年々強くなっています。

しかし、最低賃金は月収25,250元(11.6万円/1元4.61円で計算)であり若者の大半が最低賃金に近い給与で働いています。

物価高も相まり台湾の若者の生活は苦しく貯金ができないケースがほとんどです。

こうした状況では海外の高給の仕事に飛びついてしまうのもおかしな話ではありません。

今回の事件は台湾社会の低賃金問題を浮き彫りにしてしまいました。

②「新南向政策」の見直しを迫られる台湾政府

台湾は民進党(独立派)が2016年に政権を握ってから「新南向政策」を推進してきました。

「新南向政策」は中国ではなく東南アジア・南アジア・オーストラリア・ニュージーランドなどとの関係を強化する政策です。

しかし今回カンボジア政府との連携がうまく取れず台湾人被害者の救出が難航しました。

台湾では「新南向政策」の効果に対する疑問の声が上がっており政策の見直しを迫られています。

 

日本人も海外での犯罪に注意を

今後は旅行制限が解除されてゆき海外旅行をする日本人も増えることでしょう。

しかし多くの国はコロナによって産業が破壊された上にこれから本格的なインフレーションが始まろうとしています。

経済が悪くなると治安が悪化するのは当然のことです。

今回は中国語話者がターゲットになりましたが今後いつどこで日本人がターゲットになってもおかしくありません。

これから海外へ渡航される方は十分に注意してください。

 

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