日本の小売業者が続々と台湾進出!投資額が過去10年で最大になった理由は?

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日本の小売業者が続々と台湾進出!投資額が過去10年で最大になった理由は?

 

2020年は新型コロナウイルスの影響により各国から台湾への投資額の年間合計が18.3%減少しました。しかし、日本企業から台湾への投資額は2020年には過去10年間で最高を記録しました。卸小売、金融、保険、テクノロジー、サービス業などにおける投資金額の年成長率がいずれも200%を超えており、そのうち卸小売業の投資金額は年358%の増加で最高のものとなりました。2020年の日本企業による台湾投資の内容は、製造業に集中する構造からサービス業を含む多元的な構造へと移り変わっています。

また、投資総額が増加した以外に、2020年の日本企業による台湾の卸小売業界への1案件ごとの平均投資金額もまた311万米ドルという新記録を達成しました。これは年成長率にすると587%であり、卸小売業界への投資金額が長期的に低かった状況が変わり、日本企業が台湾での卸小売業の経営に全面的に取り組み始めていることを意味しています。中でも、服飾アクセサリー、総合商品、家具雑貨、電子コマース、生活娯楽用品などのジャンルが2020年の台湾投資項目のトップ5となりました。

しかし一方で、その他の国における日本企業の投資パフォーマンスは低迷しています。日本貿易振興機構(JETRO)の最新の発表では、新型コロナウイルスの影響により日本の全業種において2020年の海外販売額が38.4%減少しており、中でも小売業の海外販売額は56.7%も減少しました。具体的には、東急百貨店は2021年にタイ市場から完全撤退を決定しており、バンコク伊勢丹百貨店は2020年8月に営業を終了しており、高島屋百貨店も2020年に中国から完全に撤退しており、無印良品の米国子会社は2020年に破産申告をしています。また、しまむらも2020年末に中国市場から完全撤退しています。

日本企業の海外戦略は新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けており、日本企業の今後三年間における海外投資の比率は19.1%減少すると予想されています。ただ、2020年の台湾での小売業に対する投資額は逆に増えているのです。

 

2020年、日本企業による卸・小売業分野での台湾投資額は358%も成長。過去10年間で最大となる。

安定した内需に支えられ、小売・飲食・宿泊業などの日本のサービス業は多国籍企業の割合が10%未満、不動産業の海外売上高の割合が5%未満と、長らく本国の消費者市場への依存度が高い状態にありました。

しかし、近年の日本は、深刻な高齢化・少子化傾向の中で国内消費の低迷やサービス業の人手不足などの課題を抱えており、小売業やサービス業のビジネスモデルが内需市場のみに依存していることが課題となっていました。 これにより、日本のサービス業やブランドは、拡大する「世界の内需」を取り込むべく、総合的な海外展開戦略に乗り出すことになりました。

その結果、2014年以降、日本企業は小売・商業不動産を軸に台湾進出を加速させ、徐々に台湾に日本独自の海外ビジネスネットワークを構築しています。 マツモトキヨシ、ドン・キホーテ、アトレなどが続々と台湾に進出しており、その多くが台湾を海外進出の最初の拠点としていることから、日本企業の海外戦略において台湾市場がどれだけ重要かが分かります。

台湾の国内市場規模は限られていますが、日本のサービスやブランドを好む消費者層、日本文化を深く理解した質の高いサービス労働力、二国間貿易を通じた長年のビジネス協力の基盤を有しており、日本企業が海外で日本の生活圏を構築し、グローバルな流通人材を育成するための市場となっています。

2020年の台湾の卸売小売業への投資の358%の驚異的な伸びと1件の投資案件の平均金額の587%の伸びは、台湾の防疫の成果が関係しているだけではなく、日本企業の台湾における長期的投資計画(「卸売・小売+商業不動産+飲食観光」の共同開発戦略)に基づいているといえます。「卸売小売」と「商業不動産」と「飲食観光」を組み合わせた共同開発戦略により、海外にて日本の生活様式とビジネスネットワークを構築することができます。これは、日本の小売・サービス企業が台湾に根を下ろし事業展開が多様化することを象徴しています。

 

日本企業が台湾と日本企業の濃密なネットワークを構築し、台湾での日本のビジネスシステムを共同で推進する。

日経MJの調査によると、日本の小売業者が海外進出をする際、約4割が「海外現地企業と連携」することを進出戦略としており、様々な進出戦略がある中で最も高い割合となっています。新たな外需を獲得するため、多くの日本企業が海外現地企業と協力しているのです。

台湾の現地小売・貿易グループは、長年にわたり日本企業と密な関係を築いてきました。 台湾の消費者にとってお馴染みのローカル小売業者(美聯社、PC Home、新港三越、阪神百貨店など)や不動産(台北101など)の背後には、出資関係や技術協力関係を持つ日本企業が数多く存在しています。 日本企業と台湾企業との間に花開いたビジネス関係は、台湾に日本のビジネスシステムを根付かせるだけでなく、台湾の小売業のビジネス全体、消費者のライフスタイル、消費パターンなどにも大きな影響を与えています。

例えば、商社からスタートした台隆グループは、台隆手創館、ヤクルト、明治アイス、Pokiのアイスキャンディーなどの日本ブランドを取り扱っており、2020年には「TOKYU HANDS」の商標を取得し、海外フランチャイズ店として営業しています。

オール日本スーパーマーケット協会(AJS)の唯一の海外会員であり台湾の業界リーダーである全聯は、日本の小売グループとの戦略的な協力関係を強化しており、2012年からAJSの自社ブランド「くらし良好」シリーズを独占的に仕入れています。また、2021年には全聯が無印良品との複合店舗開発での提携拡大を発表しました。スーパーマーケットの複合化は世界初の試みということです。

他、福華ホテルのサポートにより、JR東日本グループが2021年に台湾に「JR EASTホテル台北」を開業する予定です。これはJR東日本のホテル事業の初の海外拠点となります。

しかし、二国間協力により日本ブランドに優位性やリソースがもたらされたものの、投資の撤退や日本企業による経営権の剥奪、二国間パートナーの経営上の配慮による協力関係の打ち切りなどの事例も少なくありません。 例えば、日本の有名百貨店である高島屋は2016年に資本を撤退し純粋なブランドライセンス方式に切り替えて台湾にて経営しており、無印良品は2014年に統一グループとの10年にわたる合弁関係を終了しており、統一グループは2016年に阪急百貨店との技術提携を終了しており、2018年に台湾市場に参入した日本最大のドラッグストアチェーンであるマツモトキヨシは元々は台隆グループとの合弁事業として台湾市場に参入していましたが、2020年には日本本社による直営になっています。

 

日本の雑貨屋が小売店と手を組み、アジアの国内消費市場の配当を取り込む

日本企業の海外進出は常に大手総合商社と密接な関係にありました。 三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商、双日は日本7大総合商社であり、その影響力は日本企業の6割近くに及び、国内外の市場において重要な役割を果たしています。

近年、日本の商社は成長著しいアジア市場でのビジネスチャンスを見越して、日本国内の小売店やサービス業者、優良ブランドなどと積極的に連携し、共同で海外への輸出戦略を打ち出すなどプレゼンスを強化しています。 大手商社の後押しもあり、日本の小売業やサービス業の海外輸出に向けた共同船団戦略が徐々に形になってきています。

調査によると、日本企業が海外展開する際「日系商社との提携」を選択する割合は、2017年には「海外現地企業の合併・買収」をすでに上回っています。 これは、日本の商社が長年にわたり海外輸出インフラをうまく構築してきたことを示しており、特に商業不動産と有名小売ブランドを組み合わせたビジネスモデルが近年海外戦略の重要な基盤となっていることを示しています。

台湾は日本企業にとって身近で好ましい海外試験市場であり、日本の大手総合商社7社全てが長期にわたりビジネスの土壌を整えてきました。 小売業やEコマース業界では、ほぼすべてのジャンルにおいて日本の総合商社との間の投資やビジネス関係が見られます。 「非資源分野」における最大商社を目指す伊藤忠商事は、2018年に台北101ビルの株式37.2%を頂新グループから取得し筆頭株主となりました。また、Eコマース分野ではPChomeグループの「商店街」の株式を取得し、2020年には伊藤忠商事が日本のファミリーマートを完全子会社化し、台湾のファミリーマートを伊藤忠グループの間接子会社としました。

近年、住友商事は三商ホールディングスとのマルチパートナーモデルを採用しています。2012年には有名ドラッグストアチェーン「Tomod’s」を三商ホールディングスと共同で経営し、2018年には三商ホールディングスから美聯社の株式22%を取得しています。また、三井不動産と三井不動産は「三井アウトレット」や「ららぽーと」のほか、アトレとの合弁によるJV(アトレ・インターナショナル)、微風グループとの合弁による「微風南山アトレ」、PChomeグループとの合弁によるEコマースサイト「MiTCH」などを設立しています。 台湾のOMO(Online Merges with Offline)イノベーションの事例です。

2020年8月にはウォーレン・バフェット氏率いる投資会社「バークシャー・ハサウェイ」が三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の各5%の株式を購入しており、将来的には9.9%にまで増やすと発表しました。 新型コロナウイルスの世界的な流行が沈静化しておらず経済の先行きが不透明な今日本の総合商社が台湾で大きな成果を上げていることも投資判断の一つの要因となったのかもしれません。

 

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