ちょうど一年ほど前に「台湾が新型コロナウイルスの感染抑制に成功した理由」というコラムを投稿いたしました。
あれから一年間、台湾は市中感染者数ゼロを継続してきました。
しかし、2021年5月になって状況はガラリと変わってしまいます。
中華航空のパイロットから隔離ホテルの従業員に伝染し、あっという間に市中感染が広がったのです。
初めての大規模な市中感染ということもあり現在台湾は戦時中かというほどの緊張状態に包まれています。
他国ではこの程度の感染は大きなニュースにならないですが、台湾の現状をお伝えするためにこの記事を執筆させていただきました。
【目次】
2021年5月15日、1日のコロナ市中感染者数が過去最多に
これまでコロナの抑制に成功してきた台湾ですが、5月に入ってから市中感染が増え始め、5月15日には1日の新規市中感染者数が180人となりました。これは過去最多の数字であり、中には感染源が不明な感染者もいます。
これまで台湾は市中感染を何度か経験してきましたが、その数は多くても1日に一桁程度であり、感染ルートも全て把握することができていました。だからこそ抑制に成功してきたのであり、市中感染が報じられても市民の間には心の余裕がありました。
今回はこれまでで一番危険な状況であり、ついに台湾の安全神話が崩壊する可能性があります。なぜ台湾はこんなことになってしまったのでしょうか?以下でこれまでの経緯について説明していきます。
台湾のコロナ安全神話はなぜ崩壊したか?
始まりは、4月下旬ごろに中華航空のパイロットが帰台し、隔離先のノボテルホテルで従業員や滞在者に感染したことです。その際にホテルで感染してしまった別の男性が台北市萬華區の風俗店を利用し、感染が爆発的に広がりました。
風俗店は人と人の距離が近く感染しやすいです。また、人は風俗店を利用したことを言いたがらないため、今回感染ルートの把握が遅れてしまいました。利用者は風俗を利用したことを人に言わず、店員も風俗店で働いていることを人に言わず、と言った具合に悪循環が発生しました。
これにより2021年5月15日には1日の新規市中感染者数が180人まで広がり、このうち台北市萬華區関連の感染者は43名にのぼりました。現在では台湾北部だけでなく中南部にも感染が拡大しており、感染ルートの解明や接触関係の把握などを徹底し、台湾中で警戒態勢をとっています。
※この記事を執筆している5月16日は新規市中感染者数が206人となりました。
台北市及び新北市は第3級警戒措置を発表
感染拡大が特に広がってる台北市と新北市は第3級警戒措置に入ることを発表しました。
警戒措置は全部で4段階あり、今回はロックダウン一歩手前の措置となります。
具体的な措置の内容は以下の通りです。
・通学、通勤は通常通り
・外出時はマスク着用必須(違反者は罰金)
・特定の施設(映画館、ジム、図書館、展示場、バー、娯楽施設)は閉鎖
・屋内五人、屋内十人以上の集まりや会食は禁止
・飲食店は実名登録制を採用する
・座席には仕切りをつける
また、中南部の地方都市も第2級警戒措置をとっています。
水際対策が突破されたら感染拡大を止めることができないため、残る解決の手段はワクチンだけとなるでしょう。
2021年7月末に台湾産ワクチンが接種可能に
台湾は国際的に国として認められておらずWHOに加盟できていません。そのため、台湾に輸入されたワクチンは2021年5月14日時点で31万5700本のみであり、総人口のわずか1.59%しか確保できていません。
また、台湾人はWHOへの不信任からワクチン接種意欲が極端に低く、31万5700本も予約でいっぱいというわけではありません。そのため、この少ないワクチンも余っている状況です。
ただ、一つ朗報があり、現在台湾の製薬会社が国産ワクチンを開発しており、2021年7月末には接種が可能になるということです。台湾人は国産ワクチンに対する警戒心は比較的低いようなので、7月末以降は状況が好転すると思われます。
最後に
ここからは台湾在住10年以上の私の個人的な所感になります。
日本人は今回の台湾の騒動を見て「1日たった206人の感染者数でこんなに慌てる必要があるのか?」と感じるかもしれません。ただ、これは台湾人の国民性が小心者であったりデリケートであるという単純な話ではありません。
台湾人はもともと中国由来のものに対する警戒心が高く、国がなくなるリスクを常に警戒しています。台湾人からすると今回の新型コロナウイルスはそのリスクの象徴のように見えているのでしょう。
台湾と日本では状況や成り立ちが全く異なるため、日本の価値観で観察すると台湾人の行動は理解できません。このあたりの背景を理解しつつ台湾ニュースを見ると台湾人の行動の理由がわかるでしょう。