ワクチン関連ニュースから理解する台湾の国内政治と国際関係(2021年5月末の状況)

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ワクチン関連ニュースから理解する台湾の状況(政治、国際関係)

 

これまでコロナの抑え込みに成功してきた台湾ですが、2021年5月になって感染が拡大しました。

現在はワクチンの入手をめぐって、与党と野党の間で議論が、台湾と欧米・日本との間で交渉が進められています。

というわけで今回は【ワクチン関連ニュースから分かる台湾の政治及び国際関係】について説明します。

※今回の感染拡大の経緯をまとめた記事はこちら→【2021年5月】台湾でついにコロナの大規模市中感染が始まる

 

【米国と台湾】米製ワクチンが届く

台湾は現時点で米モデルナ社と計505万回分のワクチンを契約しています。

2021年5月28日午後にはモデルナ製ワクチンの第一陣15万回分が台湾に届きました。

台湾は米ファイザー社からのワクチン購入計画もありましたが、途中で計画が頓挫しています。

台湾はこれに関し、米ファイザー社との契約が中国に妨害されたと主張しています。

 

【欧州と台湾】独製ワクチン購入計画が頓挫

2020年末にはドイツビオンテック社からの購入が決まっていましたが、2021年1月中旬に購入計画が頓挫してしまいました。

その後、中国の上海復星医薬が中国、香港、マカオ、台湾でのワクチン独占販売契約をビオンテックと締結しました。

中国政府は上海復星医薬を通じて独製ワクチンを台湾に提供できると提案しますが、台湾はこれを拒否しています。

台湾はこれについても、ドイツビオンテック社との契約が中国に妨害されたと主張しています。

 

【中国と台湾】中国からのワクチン提供を台湾が拒否

現在、上海や江蘇の民間機関が台湾にコロナワクチンを寄贈する意向を示しています。

これに対し、5月26日、台湾中央感染症指揮センターの陳時中氏は「中国製ワクチンは怖くて使えない」と述べ、受け入れない意向を示しています。

 

【日本と台湾】日本が台湾への英製ワクチン提供を提案

5月28日、日本政府が英アストラゼネカ製ワクチンを台湾へ提供することを提案しました。

これに対し台湾は感謝の意を表明し、現在はこの提案を受け入れる方向で話が進んでいます。

なお、日本は米ファイザーと米モデルナで約2.4億回分を確保しており、英アストラゼネカとは1.2億回分の契約を結んでいます。

 

台湾内の状況

現在、台湾は独立派の民進党が政権を握っています。

一方、親中派の国民党は台湾の最大野党です。

野党・国民党の洪秀柱氏は「敵は中国ではなくウイルスだ」と述べ、中国製ワクチンの受け入れを訴えており、また中国経由の独製ワクチンについても受け入れるべきだと主張しています。

また、同じく国民党所属の南投県県長・林明溱氏は中国経由の独製ワクチンを県独自で購入したいと政府に提案しています。

他、民進党寄りメディアと国民党寄りメディアの間でも報道内容に大きな違いが見られます。

 

台湾人の意見

選挙時のように調査を行ったわけではないため、台湾人の何%が中国製の受け入れを支持し、台湾人の何%が拒否しているかは分かりません。

ただ、2020年の総統選挙では民進党が大勝利をおさめており、ワクチンをめぐる議論についても民進党(=中国製の受け入れ拒否)を支持する人が多数派である可能性があります。

私の身の回りの狭い世界の話になりますが、私の知人は大部分が民進党の決断(=中国製の受け入れ拒否)に賛成であり、日本からの英製ワクチン受け入れを歓迎しています。

 

最後に

この通り、ワクチンをめぐる動き一つをとっても台湾の置かれている状況を見てとることができます。

海外との関係でいうと、台湾を支援する日米、中国の影響を受ける欧州、対立する中台、という構図が見えてきます。

台湾内の状況でいうと、民進党(独立派)と国民党(親中派)の対立、支持政党により異なるメディアの報道内容、国民のアイデンティティ(自分は台湾人なのか、中国人なのか)などで主張が分かれています。

こうした視点で中台関連のニュースを見ると、中台の間で何が起きているのかがより明確に理解できることでしょう。

 

参考記事:モデルナ製ワクチン第1陣が台湾に到着 15万回分

参考記事:独ワクチン交渉頓挫、書類に「わが国」表記で=台湾コロナ指揮官

参考記事:台湾が板ばさみ 中国からワクチンを受け取るか、政治的立場を守るか

参考記事:中国が台湾にワクチン寄贈意向 陳指揮官「怖くて使えない」

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