当コラムで過去に台湾の少子化について取り上げました。
2020年、台湾が少子化で初の総人口マイナス成長に。出生率や減少数を公開。
上記記事を要約すると以下の通りとなります。
1. 2020年に初の人口減少
出生数:16万5,249人(過去最低)
死亡数:17万3,156人
出生数が死亡数を下回り、人口が自然減少しました。台湾の少子化傾向は20年前から続いており、出生率は1998年に1.5人を下回っています。2. 社会への影響 少子化は以下の3つの側面に深刻な影響を与えるとされています。
教育:学級減、教員余り、私立学校の閉鎖など。
労働:労働人口の減少・高齢化、人手不足。
財務:年金や健康保険の赤字拡大、国家競争力の低下。
この記事は2021年に公開したものです。
2024年には台湾の出生率は0.89をマークしており(日本は1.26)、現在は公開時より少子化が深刻化しています。
そして2025年になり台湾の労働力不足問題が浮き彫りになってきたため、今回労働力不足をテーマとして取り上げました。
【目次】
現状:欠員数・欠員率が高水準
台湾労働部(労働省)の2025年9月の発表によると、2025年3月末時点で台湾の製造業・サービス業をあわせた「必要定員に対する欠員数」は 27万5,817人であり、これは需要に対して企業が確保できていない“穴”にあたり、欠員率は 3.1%ということが分かりました。
製造業に限ると欠員数は約9万2,466人で、全体の約34%を占めており、特に製造分野での深刻な人手不足が浮き彫りとなっています。またある報告では「フルタイム勤務の労働力不足」が約6.6万人にのぼるとの指摘もあり、製造業・小売/卸売業・建設業など幅広い分野で人手が足りていないことが分かりました。
参考データ:114年3月底職位空缺概況調查統計結果(中華民國勞動部)
今、なぜこんなにも人手が足りないのか
原因①:生産年齢人口の減少
台湾の生産年齢人口(15-64歳)は2015年に1,697万人でピークを迎え、その後は毎年減少し続けており、2023年には1,601万人にまで減少しました。これは年間平均で約12万人ずつ減少していることになります。中華民国国家発展委員会によれば、2070年には台湾の生産年齢人口は696万人にまで減少すると予測されています。
参考データ:「我國全時職位缺工概況」專題報告
原因②:経済構造の変化と需要の増加
半導体やICT関連など技術・製造分野の需要が高まっており、特に技術・中級技能職の不足が顕著です。また、サービス業、小売・飲食・卸売も活況で、2024年にはこれら業界の売上が過去最高を更新したという報告もあります。
参考データ:113年12月批發、零售及餐飲業營業額統計(中華民國經濟部統計處)
原因③:労働条件や待遇への不満
台湾の一部調査では、失業者のうち就業の機会自体はあっても「待遇が期待に合わない」「勤務地が理想的でない」などの理由で就労につながらないケースが多いとの分析もあり、これは「人手不足=求人がある」だけでは埋まらない“空席”があることを示唆しています。
台湾社会およびビジネスへの影響
このような人手不足は次のような影響を台湾にもたらす可能性があります。
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コンビニ・小売・飲食などのサービス業で営業時間の短縮や営業形態の見直しを迫られる店舗が増える
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賃金の上昇プレッシャー → 労働コストの高騰 → 商品・サービス価格の上昇 → 消費の鈍化
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外国人労働者のさらなる受け入れ、それに伴う各種の問題(犯罪の増加、文化的摩擦、不法就労など)
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自動化・AI化・ロボット化による労働力補填の加速
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海外展開や国際サプライチェーンの維持におけるリスク増大
日本企業が台湾でビジネスを行う際、この人手不足の構造を見越した採用戦略・コスト管理・サプライチェーン設計が必要になると言えます。
外国人労働者のさらなる受け入れ
台湾のニュースメディア・自由時報によると、台湾の外国人労働者の数は25年1月末時点で81万8,467人に上りました。このうち製造業に従事する外国人労働者は56万8,308人、看護・ホームヘルプサービスに従事する外国人労働者は25万159人でした。製造業に従事する外国人労働者が台湾の従業員数に占める割合は24年11月時点で5.55%。業種別では、製造業が15.38%、建設業が4.25%、農林漁業が19.49%でした。
台湾は既にこれだけ多くの外国人労働者を受け入れていますが、人手不足はまだまだ広がる見通しであり、台湾政府は今後も外国人の数を増やしていく方針です。具体的には、台湾政府とインド政府は2024年に「労務協力覚書(MOU)」に署名し、製造分野にてインド人労働者を徐々に増やしていくことで合意しました。初期段階としてまずは1,000人を台湾に送ることが決まっています。
しかし、台湾国内では既に治安悪化への懸念(「性犯罪大国」というレッテル)、文化的な摩擦(言語の壁や宗教の違い等)、劣悪な労働環境を与えてしまわないか(台湾人経営者も全てがいい人とは限らず、外国人の扱いが粗末になってしまうリスクがある)などの問題が指摘されています。これらに対する解決案としては、外国人労働者には無犯罪証明を要求し、少人数から徐々に受け入れて必要に応じて人数を調整できるようにするなど、できる限りの対策を行うようです。
参考データ:製造業の欠員率は3.1% 少子化背景に、労働省が初の調査(NNA ASIA)