小学校入学前に三桁の割り算、過酷な教育環境と闘う中国の子供たち

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中国の子供というと皆さんはどんなイメージを持つでしょうか。日本のメディアで紹介されている例でいうと「甘やかされて育っている」というのが一番多い印象かと思います。確かにご想像のとおり、中国の子供はこれまで一人っ子政策というものがあり、子供は一人、両親だけでなく、双方の祖父母からの愛情もたっぷり注がれて、それこそ溺愛されて育っている子供が多いのは確かです。甘えん坊が多いというのも事実だと思います。ただ、教育に目を向けてみると景色は全く異なったものになることをご存知でしょうか。

中国の子供の勉強のプレッシャーは相当なものです。もちろん、家庭の収入の違いによって教育格差というのは存在しますから、大きなプレッシャーも感じずに育つ子供もいますが、仮にも一般的な収入を得ている中国の家庭の子供は、小さいころからとても大きな勉強のプレッシャーと戦いながら育っていくのが普通です。中国の学校制度や受験制度のような難しい話はおいおいご説明するとして、今回はとある小学校に通う中国人のお子さんのお話を紹介したいと思います。

張くん(仮名)は、今小学校3年生、地元上海市でも有数の進学校であるとある国家重点大学付属小学校に通っています。張くんのご両親は取り立ててお金持ちというわけではなく、良く言っても中の中といった収入レベルです。しかし、張くんを良い学校に入れるために、張くんがまだ3歳のころから、私立の天才教育カリキュラムを標榜する幼稚園に通わせ、幼稚園の間に、読み書き、算数(三桁の割り算)、英会話、ダンス等をマスターさせました。この幼稚園、学費は月に日本円で15万円もします。両親の収入だけでは生活が成り立たないため、双方の祖父母からの資金援助を受けての幼稚園通い、張くんは3歳のころから朝6時起床、家に買えるのは夕方の5時、夜は習い事という生活を3年間続けました。こうした涙ぐましい努力の甲斐もあり、見事重点大学附属小学校にも入学することができたのです。

しかし、張くんの戦いはここからが始まりです。そして小学校になれば、戦いは張くん本人だけではなくお父さんお母さんも参加する必要がでてきます。進学校だけあって、勉強が進むスピードは非常に早く、小学校三年生の時点で既に中学生レベルの国語や数学、英語の問題が普通に登場します、当然子供だけでは宿題をこなすのは不可能なので、両親は毎晩張くんにつきっきりです。学校もそうした事情をわかっているので、宿題の内容は子供にではなく親に直接チャットアプリ等で連絡してきます。お父さんお母さんは昔勉強した覚えがあるあやふやな知識を総動員して小学校3年生の子供といっしょに中学校レベルの数学や国語の問題に挑むわけです。中国は日本のような塾はありませんから、勉強の努力は基本自分と家庭のがんばりにかかっています(一部の学校で教師が放課後にお金を取って補講をしたり、家庭教師をしてくれたりする場合もあるが、そうした先生は取り合いになるので、誰でも気軽に利用できるわけではない)。

毎晩宿題が終わるのは11時すぎ、夜ご飯は宿題をしながら、宿題が終わったら慌ただしくシャワーを浴びて就寝です。朝は7時半から自習時間が始まるので起床は6時。張くんも両親も疲れ切っていますが、周りの生徒も同じようにがんばっているので、自分だけがついていけなくならないように必死に戦い続ける毎日です。

更に両親にとって辛いのが、頻繁に開催される保護者懇談会、。日本の保護者懇談会といえばせいぜい数十分もお話をすれば終わりますが、中国の保護者懇談会は朝の10時から始まってお昼休みをはさんで夕方まで続くこともざらです。校長先生の話に始まり、教育方針、授業の計画、進学指導の予定等、参加する保護者も皆真剣そのものなので、何か議題があがるたびに保護者から大量の質問が出るため、なかなか話が前に進まず、結局一日仕事になってしまいます。

張くんの両親は思います「子供が将来困らないようにするために良い学校へ行くのは大切かもしれないけれど、これで本当に子供は幸せなのだろうか」と。とはいえ、周りの子供の環境も似たようなもの。脱落する自分の子供という恐怖を振り払うため、今日も張くんと両親の戦いは続くのです。

いかがだったでしょうか、甘えん坊の中国の子供も、こと勉強になるとこのように厳しい世界が待っています。日本ではゆとり教育への反省から授業時間を増やすという方向に進んでいますが、中国の子供の過酷さと比べるとまだ優しいものではないかと思います。詰め込み式の教育は良くないという声が中国でもあがるようになって久しいですが、状況はむしろますます悪くなっているのではないかと感じる中国の小学生の大変な勉強の環境です。

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