2021年6月、世界最大の半導体製造ファウンダリ「TSMC(台湾積体電路製造)」が日本工場建設を検討すると発表しました。
日本政府がTSMCに工場建設を要請しており、投資額は約18億米ドルを予定しています。
日米台の政治的連携が見られる中で、この通り経済界においても連携の動きが出てきました。
【目次】
台湾TSMCが日本の熊本に工場建設を検討
日本政府は半導体を日本国内で生産するようTSMCに要請し、TSMCはSONYと共同で熊本工場を建設して、自動車や家電製品向けの16~28ナノメートル(nm)の半導体を生産することを予定しています。
ソニーグループは映像デバイスの生産工場を熊本県に保有しており、イメージセンサーや車載用マイクロコントローラーなどのチップを容易に国内に供給できるようにする狙いがあります。
日本が協力相手として台湾TSMCを選んだ理由
日本が協力相手として台湾TSMCを選んだ理由はいくつかあります。
- 政治的理由(中国の台頭を食い止め、米中貿易戦争のリスクを分散する)
- 生産コストをカット
- ソニーとの連携で日本国内での半導体生産量を増やす
- 日本の優秀な人材を利用する
①政治的理由(中国の台頭を食い止め、米中貿易戦争のリスクを分散する)
ブルームバーグのコラムニストであるティム・カルパンは、日本は中国・韓国との間に地政学的な対立があるが、台湾とは結びつきを強化することで中国の台頭を食い止めることができると述べています。実際、日台の経済的連携はすでに始まっており、2021年2月にはTSMCが茨城県つくば市に研究開発拠点を設立しています。2021年夏にはつくば市の産業技術総合研究所がテストラインを整備し、2022年には研究開発を開始する予定で、高性能な3次元集積回路の製造技術開発を目指しています。研究開発には、イビデン、信越化学工業、芝浦機械など、日本の企業20社が参加する予定です。
また、TSMC側としては米中の貿易対立が長期化する中、日本拠点建設によりリスクを分散する狙いがあります。
②生産コストをカット
経済産業省IT産業課の西川和美課長は、世界の素材や機器の製造において日本は依然として確固たる地位を占めており、工場を建設することで生産コストを下げることができると述べています。日本政府は10~20ナノメートルの技術を用いて工業用ウエハーを生産する施設の建設を計画しており、その費用は5,000億円(約1,262億台湾ドル)以上になると見込んでいます。
③ソニーとの連携で日本国内での半導体生産量を増やす
今後主に自動車業界を中心に半導体チップの供給が追いつかなくなることが予想されています。そこで日本政府はTSMCを熊本に誘致し、熊本にあるソニーのイメージセンサー工場(熊本県)と連携することで、イメージセンサーや車載用マイクロコントローラーなどのチップの国内生産量を増やすことを計画しています。
④日本の優秀な人材を利用する
TSMC側の狙いとしては、日本の優秀な人材を活用するというものがあります。日本は1980年代まで半導体王国であり、日本には現在でも高い技術力を持った人材がいます。また、日本は給料が安いため費用対効果が高く、コストの面でもメリットが大きいです。実際、インテルやグーグルも日本に研究開発施設を持っています。
台湾TSMCとその他の国の経済連携
最後にTSMCとその他の国の連携についても見てみましょう。
TSMCはチップの生産を求める米国政府の期待に応えるため、米国内に新工場を建設しています。TSMCは3月末にアリゾナ州に12インチの工場を建設し、2024年に5nmチップを量産し、初期の月間生産量は2万チップを目標としていると発表しました。なお、TSMCは昨年の売上のうち62%が米国のクライアントでした。
チップファウンドリを主力事業とするTSMCは、現在、アップル、クアルコム、エヌビディア、ブロードコム、アマゾン、グーグルなどの大手チップデベロッパーや、ソニー、NXPセミコンダクターズ、ルネサスエレクトロニクス、インフィニオン・テクノロジーズなどの車載用チップ企業を顧客としています。
世界的に自動車用チップの不足が深刻化していることを受け、米国・日本・ドイツの自動車企業はTSMC及び同業他社に対して自動車用チップの生産を優先するよう圧力をかけています。三ヶ国の政府は国産チップの生産量を増やす必要性を強調しています。
参考記事:台積電到日本設廠,為什麼選在熊本?(TSMCが日本工場建設、なぜ熊本を選んだ?)
参考記事:台積電傳將前進日本熊本設晶圓廠,盼快速滿足客戶Sony需求(TSMCが熊本にウェハ工場設立を検討、Sonyの要求を迅速に満たす)