東日本大震災以来、台湾では福島食品の輸入解禁について議論されてきました。
2022年2月8日、中華民国行政院は福島、茨城、栃木、群馬、千葉など5県からの食品の輸入解禁を発表し、「三原則」及び「三配套」を守ることを発表しました。11年にわたる輸入全面禁止の制限が解除されることになったのです。
ここで気になるのが福島食品の安全性です。また、今回の輸入解禁がCPTPP(※)メンバー加入との交換条件だったのかどうかも気になる所です。
※CPTPP・・・アジア太平洋地域における経済連携協定。関税を大幅に引き下げ貿易・投資の自由化を進めるとともに、公正な通商ルールの構築を目指す。
【目次】
汚染食品の定義とは?
2011年に東日本大震災が起き、福島の原子力発電所から放射性物質が漏洩しました。そこで台湾を含む55の国や地域が即座に福島及び近隣県(茨城、栃木、群馬、千葉など)からの食品の輸入をストップさせました。
中華民国行政院の説明によると、台湾は2016年に食品中の原子粉塵や放射性エネルギー汚染の許容値を改定し、乳製品と乳児用食品のヨウ素131は55ベクレル/kg、その他の食品は300ベクレル/kgから100ベクレル/kgに変更し、セシウム134とセシウム137の合計を一般食品では370から100Bg/kgに、乳製品・乳児用食品では370から50Bg/kgに変更しました。また、新たに飲料や包装水に対して10ベクレル/kgという規制が導入されました。すべての輸入食品は国民の健康を守るために政府の厳しい基準を満たす必要があることが強調されました。
「三原則」及び「三配套」とは?
福島産食品の輸入を開放するにあたり、行政院は国際基準により厳しく食の安全を守る「三原則」と、特定地域からの輸入禁止を特定商品からの輸入禁止に変更しリスクのあるものには放射線安全証明書と産地証明書を要求し福島近隣5県の食品を国境で一括検査する「三配套」を提案しました。また、食品薬品監督管理局の吳秀梅局長は、貿易業者には食品安全法に基づく表示が厳しく求められ、表示は中国語でなければならないことを強調しました。
福島食品はどの国が輸入制限を撤廃しているか?
2014年以降、ニュージーランドやカナダなどの国々が福島産食品の規制を徐々に解除していますが、その他の14の国・地域はこれまで通り管理規制を維持しており、そのうち中国、香港、マカオ、韓国は「輸入全面禁止」を維持しています。
過去にアメリカは日本の食品に対して部分規制を行い、14県の農産物に対し「食品項目」に基づいて最大100品目まで輸入制限をしていましたが、2021年9月には制限の全面解除を行なっています。
また、かつてEUは輸入禁止までは行わなかったものの部分規制を行っており、特定地域や特定食品に対して放射線検査証明書の添付を義務付けていました。米国が解禁を発表した後はEUも追随して規制を緩和し、放射能証明書の添付が不要になりました。
なぜ各国は福島食品の輸入を解禁しているのか?
各国は被災地域周辺で生産された食品は放射性物質による健康被害をもたらすと考えています。しかし、実際には科学技術により食品中の放射性物質(セシウム、ストロンチウムなど)を検出し半減期などのデータから食品のリスクを判断することが可能です。かつて世界各国は福島と周辺県で生産された食品の輸入を全面禁止としていましたが、現在はデータに基づいてリスクの高い食品を制限する規制へと徐々に移行しています。
台湾における「反汚染食品」の国民投票の効力はまだあるのか?
近年台湾では諸外国にならって輸入食品を全面的に禁止するのではなく、科学根拠に基づいて食品の安全性を判断しリスクに応じて調整・管理することが求められています。規制緩和賛成派はほとんどの国が科学的根拠に基づいて規制を緩和しており、リスクがなければ心配する必要はないと考えていますが、反対派は福島と周辺県で生産された食品に対する疑いを未だにもっており規制を続けて安全を優先すべきだと主張しています。
2018年に台湾で行われた国民投票では、国民党の郝龍斌氏が中心となって「反核食(反汚染食品)」と呼ばれる国民投票を提案しました。その主文は「中華民国政府は福島と周辺4県(茨城、栃木、群馬、千葉)を含む福島311原発事故関連地域の農産物と食品の輸入禁止を維持すべきか」というものであり、最終的に779万票対223万票で輸入規制を維持することに賛成する国民が多数派となり、禁止令は可決されました。2021年9月22日、中華民国政府はCPTPPへの参加を正式に申請し汚染食品問題が再びクローズアップされることになりました。
福島食品とCPTPPの関係は?政府の説明は?
2021年、中華民国(台湾)と中国からほぼ同時にCPTPPへの参加申請があり、これが国際的な議論の焦点となりました。日本当局は台湾に日本産食品の早期解禁を求めただけでなく、台北の日本商工会議所も2021年白書を発表し台湾のCPTPP加盟を強く支持するだけでなく台湾政府は福島産食品の解禁を検討するべきであり規制解除がCPTPP加盟のための敷石になると強調しました。
王美華経済部長は、日本はCPTPPの主要国であるため台湾がCPTPP申請国として日本側と協議する際には必ず福島の食品が議題に上ると明らかにしました。最大野党である国民党の黄潔正国際部長は、CPTPPへの加盟条件と福島産食品の輸入規制解除には関係がないとの考えを示しました。
国民の間からは、蔡英文政権がCPTPPに加盟するために輸入規制を解除しようとしているのではないかと懸念する声もあります。野党国民党は立法院での答弁で汚染食品の規制解除をCPTPPへの参加条件にしないことを約束するよう政府に求めました。こうした懸念に対して、蘇貞昌行政院長は「日本は交換条件としてそのようなものを提示していない」「自国民に汚染食品を食べさせたいと考える政府がどこにあるか。恣意的に汚染食品と決めつけてはならない。」と述べました。
※上記、野党国民党と記載されている人物以外は与党民進党の政治家です。
規制解除に対する各政党の考え
中華民国行政院が福島産食品の解禁を正式に発表した後、蘇貞昌行政院長は国民の健康のために厳格な検査を行うけれども日本産食品を差別することはないと述べました。また、蔡英文総統は台湾は日本産食品を科学検査に基づいて扱い、汚染食品を輸入することはないと国民に説明しました。
これに対し民衆党立法院議員団は、福島産食品の輸入には反対しないけれども、政府は「社会的コミュニケーション、産地の管理、明確な表示」の3原則を徹底するよう要求し、ラクトパミン豚(過去、人体に影響がある化学成分を含んだ豚を輸入して問題になったことがある)の際と同じ轍を踏んではならないと強調しました。
野党国民党の朱立倫主席は、健康を害する被災地の食品には徹底して反対しており、国民党は立法院の議員団、地方政府、地方議会、社会勢力と協力して公共の食品安全を守ると表明しました。