ここでは2024年1月13日に行われる台湾総統選挙のポイントを解説しています。
台湾総統とは、簡単にいうと台湾の大統領です。
総統は外交や軍事において強い権限を持っているため、この選挙は今後の台湾の方向性に大きく関係します。
各立候補者の特徴や今回の選挙のポイントについて理解することで、台湾情勢、ひいては東アジア情勢を理解することが可能になります。
【目次】
2024年 台湾総統選挙の概要
まず最初に2024年の台湾総統選挙について理解を深めましょう。
選挙の目的:中華民国16代総統、副総統、立法委員を選出するため
選挙の方式:直接投票
選挙日時:2024年1月13日 台湾時間午前8時〜午後4時
有権者数:約1950万人(台湾の総人口は約2300万人)
有権者資格:中華民国国籍、満20歳以上、中華民国に6ヶ月以上住んでいる
2024年 台湾総統選挙の最大の争点は?
他の多くの国と同じように、台湾にも解決すべき社会問題が多数存在します。
少子高齢化、年金、エネルギー、公害、経済などなど、数え始めたらキリがありません。
しかし、やはり台湾にとって一番大きな問題は中台関係(両岸問題)でしょう。
台湾と言っても一枚岩ではなく、台湾独立派、現状維持派、統一派などなど、様々な考えの人がいます。
近年は台湾有事について懸念されており、台湾独立派、現状維持派、統一派のどの人々にとっても一大テーマとなっています。
よって以下では、中台関係を中心に、現時点で立候補を表明している4名の政策を紹介していきます。
2024年 台湾総統選挙の立候補者(2023年10月時点)
2024年台湾総統選挙は、2023年11月20日から24日の間に立候補の受付を行います。
現時点で立候補を表明している人物は合計4名です。
①賴清德(民主進歩党)
②侯友宜(中国国民党)
③柯文哲(台湾民衆党)
④郭台銘(無所属)
これから更に増える可能性はありますが、知名度や支持率を考えてもこの4名が有力候補であることは間違いないでしょう。
以下でこの4名について詳しく解説していきます。
①賴清德(民主進歩党→現与党・台湾独立派)
生年月日:1959年10月6日(64歳)
出生地 :中華民国の旗 中華民国 台湾省台北県万里郷(現:新北市万里区)
出身校 :国立台湾大学医学部リハビリテーション科、国立成功大学医学部学士編入課程、ハーバード大学公共衛生大学院
所属政党:民主進歩党(略して民進党)
前職 :元は内科医であり、1998年から立法委員、2010年から台南市長、2017年から行政院長(首相に相当)をつとめた。
現職 :台湾副総統(現総統は蔡英文)
・外交、対中関係
2022年7月5日、賴清徳は「維護台海和平方案」と題する投書をウォールストリートジャーナルに寄稿し、台湾海峡の現状維持を支持し、「中華民国台湾」と国際社会の最善の利益を重視すると主張しました。その中で賴清徳は平和を守るための4つの柱となる考えを提案しました。それは、国防を強化して抑止力を高め、経済の安定性を向上させ、グローバルな民主国家とのパートナーシップを築き、安定的で原則に基づく中台間における指導力を発揮することの4つです。
・国防
賴清徳は、国立政治大学で開催された「政治進学イベント!?-若者と議長の約束」の座談会で、国防の強化と他の民主国家との協力を通じて極権国家が軽率な行動をとることを躊躇するようにする必要があると述べています。また、賴清徳は「主権のない平和は真の平和ではない」と考えています。兵役政策に関しては、「大学3+1」政策を支持しており、これは大学生が徴兵の一環として、3年間の大学教育を受けた後、1年間の軍務に就く選択肢を提供する政策です。
・産業、経済、貿易
国内政策においては「五大信頼産業」を提唱し、これが彼の産業政策の中心となっています。半導体、人工知能、軍事、セキュリティ、通信の5つの産業分野を指し、これら分野を強化することを目指しています。
・エネルギー
賴清徳のエネルギー政策は、おおむね蔡政権の方針を継続し、「非核、減炭、増ガス、緑化」を主軸としています。具体的には、「2050年までにネットゼロエミッションを達成」「2025年までに核エネルギーゼロを達成」などの理念を引き続き採用していますが、緊急の場合には核エネルギーを使用することも検討すると述べています。
・住環境
賴清德は蔡政権が現在実施している「住宅三法政策」を引き続き推進することを支持しています。この政策の主要な要点には、囤房稅の「全国への統合」などの方向をさらに推進し、若者の住宅購入を支援するための優遇ローンの限度額の引き上げ、社会住宅と家賃補助政策の拡充が含まれています。
賴清德が当選したらどうなる?
大まかな政策は蔡英文政権と同じであるため、「日本を含む西側諸国との関係強化」「リベラル路線」「東南アジア諸国との連携」「中国との統一は望まず、経済提携も慎重に進める」などの方針が継続されます。中国との緊張状態も続きます。
②侯友宜(中国国民党→現最大野党・中国との友好または統一を望む)
生年月日:1957年6月7日(66歳)
出生地 :中華民国の旗 中華民国台湾省嘉義県朴子鎮(現・嘉義県朴子市)
出身校 :中央警官学校
所属政党:中国国民党
前職 :行政院内政部警政署署長(日本の警察庁長官に相当)、中央警察大学校長(日本の警察大学校校長に相当)など警察官僚の要職を経て、前新北市長朱立倫の元で副市長当選、のちに新北市長当選
現職 :新北市長
・外交、対中関係
侯友宜は2023年6月23日に桃園で国民党主席の朱立倫と一緒に寺院を参拝した際、「両岸一家人(台湾と中国は家族)」というスローガンを提唱しました。侯友宜は台湾と中国の間で「対等」「尊厳」「友好」の原則に基づき平和的な交流を行い、実務的な往来を再開し、両者の関係をより安定させるべきだと述べました。さらに侯友宜は2023年7月3日にラジオ番組のインタビューで、「中華民国憲法」に合致する「九二共識」を支持し、台湾と中国大陸の間で「主権を認めないが、統治権を否定しない」政治的現実を提唱しました。
・国防
侯友宜は現在の徴兵制の兵役期間が1年に延長されている方向について、兵役期間を4ヶ月に戻すことを検討すべきだと考えています。ただし、その前提条件として「台湾と中国大陸の和平と安定が確保されていること」を強調しています。また、彼は台湾の国防を強化し、自己防衛能力を向上させ、アメリカからの軍事支援を継続することを支持しています。
・産業、経済、貿易
侯友宜は台湾の経済と貿易が1つの経済体に依存するべきではないと主張し、シンガポールのように多くの国と「自由貿易協定」(FTA)を結ぶことを提案しています。また、地域のリソース統合を通じて、企業にとって安定した環境を共同で構築するべきだと考えています。
・エネルギー
侯友宜の「2050 エネルギービジョン」は、主に「環境持続可能性」「国家の安全」「人々の健康」「順序立てられた転換」が中心となっており、核エネルギーを減少させるための手段として位置づけています。侯友宜は台湾の核発電所である核一、核二、核三の原発を安全に保守運営し、運営を引き続き行い、核四は全体的な安全検証を行った後に再開すべきだと主張しています。エネルギーの割合に関して、侯友宜は「2030年までに炭素減少」「2035年までに低炭素実現」「2040年までに石炭不使用」「2050年までにネットゼロエミッション」を計画しています。
・住環境
侯友宜は新北市市長として提唱した住宅政策を行い、また、新たに「安心租(家賃の安定)」「拚社宅(低所得者のための住宅)」「止炒作(不動産投機の抑制)」「挺青年(若年層への住宅サポート)」「優先住(住民の住宅ニーズを優先的に考慮)」の5つの主要政策を強調しています。
侯友宜が当選したらどうなる?
中国との経済的な結びつきが強化されます。中国は台湾企業の中国進出に対して大規模な支援及び緩和政策を行い、台湾経済の中国依存が増えます。また、中国から台湾への旅行客が増え、台湾のインバウンド事業が飛躍的に伸びます。ただ、侯友宜は一つの経済体に依存しないことを主張しているため、これまでの中国国民党の政治家とは違う政策をとる可能性もあります。台湾有事の可能性は低下します。
③柯文哲(台湾民衆党)
生年月日:1959年8月6日(64歳)
出生地 :中華民国の旗 中華民国 台湾省新竹県新竹市(現:新竹市北区)
出身校 :国立陽明大学、国立台湾大学
所属政党:台湾民衆党
前職 :外科医、台北市長
・外交、対中関係
柯文哲は2023年7月18日に行われたメディアインタビューで、「両岸一家親(台湾と中国は家族)」という考えを再び提唱しました。柯文哲は台湾が法的に独立することはできないと信じ、代わりに「台湾の自治、両岸の平和」を提唱しています。柯文哲は台湾の独立を支持せず、中国大陸との平和的な関係を重視していることが分かります。
また、2023年8月6日には過去に双城論壇で提案した「5つの相互」原則を再び取り上げました。これは「互いに認識し、互いに理解し、互いに尊重し、互いに協力し、互いに理解する」という原則であり、これらの原則を通じて両岸間のコミュニケーションを促進し、友好的な関係を強化し、敵対的な行動を減少させ、戦争のリスクを軽減させることを目指しています。
さらに、2023年8月21日には、台湾と中国大陸間の協定を監督する「両岸協議監督條例」を制定する必要性を強調し、特に「貨物取引」に焦点を当てています。
・国防
柯文哲は台湾の兵役期間について「4か月では十分でないし、1年でも不十分だ」と述べています。彼は国防に関し、陸軍ではなく網軍(サイバー部隊)、空軍、海軍を強化すべきだと主張しています。また、兵役制度については、「募集を主要な方法とし、徴兵で補完するべきだ」と述べています。
・産業、経済、貿易
柯文哲はテクノロジー産業に関して、国際投資の誘致、台湾の新興産業の発展、高度な人材育成という3つの重要な戦略を通じて、米中貿易戦争の中で人工知能(AI)産業の発展を積極的に推進すべきだと主張しています。これにより台湾の経済を多様化させ、国際競争力を高めることを目指しています。
・エネルギー
柯文哲のエネルギーポリシーの中心には「クリーンエネルギー」「供給の安定」「持続可能な美しい未来」があります。柯文哲は原子力発電を基幹電力に組み込むべきだと主張し、核一はもはや運営を継続することはできないと考えていますが、核二および核三は運営延長できると述べています。また、核四については検査後にその将来について議論すべきだと考えています。
さらに、柯文哲は「2030年までに再生可能エネルギーを40%にする」という目標を提出し、ゼロエミッション産業を「台湾10年ビジョンプロジェクト」に組み込み、10年以内に電気自動車と充電ステーションの数を現在の5倍に増やし、国家電力ネットワークをスマート化することを目指しています。
・住環境
柯文哲は台北市長時代の住宅政策を引き継ぎ、「三多力」住宅政策を提唱しています。この政策の要点は「大力蓋(更に建設)」「大力改(更に改善)」「大力補(更にサポート)」です。
柯文哲が当選したらどうなる?
柯文哲の外交政策を見るに、中国との距離は縮まると思われます。ただ、国防や西側諸国との関係の強化も重視しているため、国民党が政権を握った場合とはまた異なる形になるでしょう。台湾民衆党は新興政党であり過去に政権を握ったことがないため、未知数の部分が大きいです。台湾有事の可能性は低下します。
④郭台銘(無所属)
生年月日:1950年10月18日(72歳)
出生地 :中華民国の旗 中華民国台湾省台北県板橋鎮(現:新北市板橋区)
出身校 :中国海事専科学校(今の台北海洋技術学院)の航運管理科
現職 :フォックスコン(鴻海)のCEO
・外交、対中関係
郭台銘は2022年7月17日に『ワシントン・ポスト』に寄稿し、台湾が「一つの中国」の原則を支持した上で中国と直接交渉すべきだと主張しました。また、8月23日砲戦65周年を前に郭台銘は金門を訪れ「金門平和提案」を発表し、2,000万米ドルを投じて「両岸平和提案基金会」を設立することを約束しました。
・国防
郭台銘は国防に関し「戦いに備えるが挑発はしない、戦いに備えるが戦わない」を主張しています。軍事装備に関しては、ウクライナとロシアの戦争でウクライナ軍がドローンを利用してロシアの装甲車両に対抗した成功例を挙げ、ドローンやロボットが国防の賢明な選択肢であると提案しています。
・産業、経済、貿易
郭台銘は経済に関し「五大国家経済戦略布局」を提案しています。その内容は以下の通りです。
- 台湾の国際的経済戦略の再構築、G2サプライチェーンのグローバルな経済および貿易の中心地となる。
- 次世代のリーダーシップを育て、経済の持続的成長エンジンとする。
- 中小企業の適応力アップをサポートし、台湾を「隠れたチャンピオン」の育成拠点とする。
- 生活経済に焦点を当て、社会的公正を実現し、経済の成果を国民全体で共有する。
- 双方向の平和を創造し、資金と才能を引き寄せ、国の総合競争力を高める。
・エネルギー
核一および核二発電所を早期再稼働させ、核三の延長運転にも賛成しています。また、核四発電所については市民審議会を招集し、合意を形成すべきだと主張しています。さらに、新しいエネルギー源の開発について、郭台銘は小規模な核発電所の開発、潮力発電、海洋温度差発電などの再生可能エネルギーに取り組むべきだと考えています。
・住環境
郭台銘は福祉住宅を「窮人維他命(貧困者のビタミン)」と位置づけ、公益性のある福祉住宅会社を設立し、最初に板橋にて開始させ、その後土城で最初の福祉住宅デモンストレーション住宅エリアを建設することを提案しています。彼は「工者有其屋(労働者は住む場所を持つべきだ)」という目標を達成することを望んでいます。
郭台銘が当選したらどうなる?
先祖が国共内戦で中国から台湾に移った外省人であり「一つの中国」の原則を支持していることから分かるように、郭台銘が当選したら中国との距離は縮まります。特に、郭台銘はビジネスマンであるため、中国との経済関係強化を進める実利的な政策が増えることになるでしょう。ただし、それは台湾経済が中国に取り込まれることを意味するため、台湾人の中にはこれを警戒する人も少なくありません。台湾有事の可能性は低下します。
最新の支持率
大手メディアによる最新調査をいくつかご紹介します。
美麗島電子報の調査(10/14)
①賴清德(民進党)36%
②侯友宜(中国国民党)19.8%
③柯文哲(台湾民衆党)17.2%
④郭台銘(無所属)6.2%
CNEWS匯流新聞網の調査(10/16)
①賴清德(民進党)29.7%
②侯友宜(中国国民党)16.2%
③柯文哲(台湾民衆党)27.7%
④郭台銘(無所属)11.7%
どの調査結果を見ても、賴清德がトップで、侯友宜と柯文哲が二番手争いをしているという状況です。
このままいくと賴清德が当選するので、侯友宜と柯文哲のうち支持率が高い方のみが立候補して票を統一させようという動きもあるようです。
(侯友宜と柯文哲は政策や思想が近く、二番手と三番手であり票が割れている可能性があるため。)
しかし、この交渉の実現可能性は低く、現状の候補者のままで選挙を迎える可能性が大きいです。
参考記事:2024總統參選人政見一次看/「四腳督」賽局成形!9大領域政策,賴侯柯郭怎麼說