中国人観光客からみる日本の温泉の違和感?

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 温泉といったら、みなさんはどういうイメージが湧きますか。全て当てはまるわけではありませんが、おそらく「疲労回復、ストレス解消、健康増進、リラックス効果」などのポジティブなイメージが圧倒的に多いでしょう。また、心身を癒してくれる温泉は冷え性やむくみの改善や抜群な美肌効果で、女性の間では爆発的な人気を博しました。

 確かに、日本人は温泉を愛してきました。ところが、日本人に馴染みのある温泉は、中国人から見ると、どうしても無視できない違和感があるようです。これが原因で、日本の温泉になかなか入れない中国人もいるため、日本の温泉は実際のところ、中国人の受けは思ったよりよくないのです。この違和感の正体は一体何なのでしょう。これから、それを探ってみたいと思います。興味のある方は、ぜひ最後まで付き合ってください!

■日本の温泉

 日本は世界規模から見ても有名な「温泉大国」です。環境省の発表した資料に基づき、日本温泉総合研究所が作成したデータを見てみると、平成29年(2017年)日本の温泉地の数は2,983箇所があります。



日本温泉総合研究所により(参照日:2020/3/6)

 直近十五年は微減傾向となりますが、日本の国土面積の割には多い方だと考えられます。このような豊富な温泉資源に恵まれている日本は、古くから特有な温泉文化を発展してきました。このおかげで、多くの外国人観光客を惹き、日本地域の活性化や経済発展にも多大な貢献をしています。観光庁の資料によりますと、「温泉入浴」は2017年に訪日外国人旅行者の、「訪日前に期待していたことランキング」で、29.9%でTOP5に入り、また「今回実施したことランキング」で第六位(38.7%)、「次回実施したいことランキング」で第四位(43%)に入っています。このように、日本の温泉の良さは日本にとどまらず、世界中の人々にも知られているようです。

観光庁資料・平成30年12月12日により(参照日2020/3/6)

■中国人から見る違和感

 しかし、冒頭でも少し触れたように、中国人から見た温泉は、良いところばかりではないようです。それはなぜというなら、次の環境省調査データを見ていただきたいと思います。環境省の資料である「温泉地に関する基礎的なデータ集」の外国人意識調査では、「温泉を訪れなかった理由」の中に、「裸で入るのに抵抗があった」が18.6%で、「温泉の行き先がわからなかった」と並列して第三位でした。


環境省「温泉地に関する基礎的なデータ集」(参照日:2020/3/6)

 これでみなさんもお分かりいただけましたでしょう。そうです、単刀直入で言うと、日本人に馴染みのある「全裸で温泉に入る」ことは、中国人にとってあまりにも恥ずかしいことであり、ありえない話でもあります。なぜなら、中国の温泉は基本的に「水着の混浴」が主流であり、水着の代わりにタオル一枚で体を包んで入る男女別浴も少なくありません。つまり、「温泉」は裸じゃなく、水着で入るものだと中国人はそう認識してきたのです。

 それは個別の中国人の思い込みではなく、中国生まれ育ちの人なら、みんながそういう風に教わってきたと言っても過言ではありません。その証拠に、中国国内最大の検索エンジン「百度(バイドゥ)」を見ると分かります。グーグルで「温泉 持ち物」を入れて検索すると、出てくるのは着替えやタオルなどのものに対し、百度で同様なキーワードで検索したら、真っ先に出てくるものは「水着(泳衣泳裤)*」が出てきます。こういった違いからも分かるように、日中温泉文化の相違は顕著でしょう。
*水着の中国語:泳衣(女性)/泳裤(男性)

グーグルのPC検索画面(2020/3/5)

中国検索エンジン「百度」のPC画面(2020/3/5)

 また、万が一中国で温泉に行く時、水着をうっかり忘れてしまったとしても、心配することはありません。温泉施設の中に、普段より高くなるかもしれませんが、必ず水着が数多く並ぶ売店コーナーがあります。

中国ドラマ「夏至未至」にある、温泉旅行のために水着を購入するシーン

 さらに、中国のオンラインショッピング市場を制覇した中国最大のECモールとして有名なタオバオと呼ばれるサイトでは、「温泉」というキーワードだけを入れてみたら、下図のように、可愛いレイディース水着が次から次へと画面に表示されています。

タオバオスマホアプリの検索画面(2020/3/5)

■違和感の背後に隠されている中国思想

 では、なぜ中国人は水着で温泉に入ることにここまでこだわっているのでしょうか。それは、日本の温泉文化と違い、中国文化の中で「身体の露出」は古くから一つのタブーであるからです。女性より男性の汗腺が発達しているのも一つの原因ですが、封建制度における古代中国は男尊女卑の極まりだったため、大昔の「男不露脐,女不露皮(男性はおへそを出さず、女性は皮膚を露出しない)」ということわざのように、「身体の露出厳禁」思想は特に女性に厳しかったようです。それゆえ、幼い頃からの外出しない箱入り娘でないと、「良家妇女(良家の婦人/良き女性)」として認められない時代もありました。なぜなら、女性の身体、たとえ手足でも、一旦露出したら、それは男性に「性的誘惑」を施していると捉えられるからです。その上、古代中国では、自分の裸の姿が誰かに見られると、霊魂もその人に占有、コントロールされてしまう伝説も流布していたようです。

 もちろん、上述のような「封建的糟粕」はなくなりましたが、「身体の露出」は一つのタブーであるという考え方は、今までも中国人の中で存在し続けています。

■まとめ

 普段の日常生活から離れて温泉地に行き、全裸の状態で温泉の成分をより吸収して五感に刺激を受けることで、自身にも、周りの環境にも率直で向き合うことができて心身ともに解放されます。これは日本の温泉文化の一環だと言えましょう。タブーを破ることはなかなか難しいですが、「入乡随俗(郷に入っては郷に従え)」ということわざのように、「全裸で温泉に入る」習慣がない中国人ですが、恥ずかしいながらも、日本に溶け込むように頑張って裸で入るようにもしている方も大勢いらっしゃいます。また、日本も日本なりで、外国人観光客のために、水着で入れる温泉を開発し続けています。世界各地の温泉文化は異なっているにも関わらず、お互いに理解しあい、思いやりのある温泉を完成させることで、日本の温泉文化はさらなる魅力を引き出しました。これからも、優れた日本の温泉をもっと世界に発信し、世界中の人々が日本温泉を満喫できますように、期待し続けます。

 今回のコラムは以上です。参考になれば幸いです〜yami♡

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