ネットプロモーションの世界において、長らく解決できなかったジレンマがあります。それは「パーソナライズ(個別最適化)」と「スケーラビリティ(拡張性)」の両立です。
一人ひとりの顧客に寄り添ったコミュニケーションを行えばエンゲージメントは高まりますが、コストと時間は膨大になってしまいます。一方で、効率を求めて不特定多数に向けたコンテンツを一斉発信すれば、エンゲージメントは低くなります。しかし今この矛盾を根本から解決する技術が爆発的な進化を遂げています。それがAIによる「ボイス・クローン」と「デジタル・ドッペルゲンガー」を活用したパーソナライズプロモーションです。
1. 中国で実際のライバーよりも「AIアバター」が売上を上げた!
米メディアCNBCにて驚くべき記事を発見しました。
AIヒューマンが「生身」を超えた:中国の起業家、デジタルアバターによる配信で約11億円を突破
中国のテック大手「百度(Baidu)」と人気ライバーによる共同プロジェクトの結果、AIが生成したアバターが実在の人間よりも多くの商品を販売できることが証明された。中国で最も初期から活動し絶大な人気を誇るライバーの一人である羅永浩(ルオ・ヨンハオ)氏と共同ホストの肖木(シャオ・ムー)氏は、去る2025年6月15日(日)、百度のEコマース向けライブ配信プラットフォーム「優選(Youxuan)」にて対話型のデジタルアバターを用いたライブ配信で765万ドル(約11.7億円)を売り上げた。これは、彼自身が直接ホストを務めた前回の配信成績を上回る結果となった。あるアナリストは「これは中国のライブ配信およびデジタルヒューマン業界全体にとっての『DeepSeek的瞬間(ゲームチェンジャーとなる転換点)』だ」と評している。
上記の記事にある通り、ライブコマース大国である中国では驚くべき光景が日常となっています。なんと、中国のトップライバーが自身が過去に配信したデータ(しかも数分という短い動画)から生成された「デジタル分身(デジタル・ドッペルゲンガー)」を使い、ライブコマースのプラットフォームにおいてわずか7時間の配信で5,500万人民元(約11億7,000万円)を売り上げたというのです。
ここで重要なのは、実際にライバー本人がライブするよりも成績が良かったという点です。AIクローンは本人の独特のイントネーションや感情の揺らぎまで完璧に再現できるだけでなく、人間が休息を必要とする深夜帯や早朝にも「最高のコンディション」で接客を続けることができるのです。さらには、AIが自らファンのコメントに返信することもできるというから驚きです。本人の声のトーン、表情、癖と全く同じなのでファンに離脱されることはなく、さらには異なる時間帯の視聴者にも常にライブの臨場感をもってリアルタイムで販促できるのです。
2. インフルエンサーからの配信はただの「配信」ではなく「会話」になる!?欧米テック大手のAI活用
この波は中国に留まりません。欧米の巨大プラットフォームもこの「声のパーソナライズ」を次のプロモーションの主戦場と定めています。
■SpotifyのAIパーソナライズ広告
世界最大の音声プラットフォームであるSpotifyはポッドキャスターの声をクローン化し、リスナー一人ひとりに最適化した広告を自動生成するテストを開始しました。例えば、東京に住むAさんにはお気に入りのポッドキャスターの声で「Aさん、渋谷のあのカフェで新作が出たよ」と語りかけ、大阪のBさんには同じ声で「Bさん、難波の店がおすすめだよ」と伝えます。これは単なる地域情報の差し替えではありません。リスナーが信頼するポッドキャスターが自分のためだけに情報を届けてくれるという体験なのです。これが従来の「不特定多数に向けたCM」を一瞬にして「親しみのある人から自分へのオススメ」へと変貌させるのです。
引用元:Spotify reportedly developing AI-generated voices that mimic podcast hosts for ads
■MetaのAIパーソナライズチャット
Meta(旧Facebook)もInstagramなどのプラットフォーム上でクリエイターが自分のAI版を作成できる機能を展開しています。ファンはDMを通じてクリエイター(のAI)と会話ができます。今後はクリエイターの音声が読み上げられ、実際に憧れのクリエイターと会話しているかのようなコミュニケーションもとれるようになる可能性があります。
引用元:Meta、AIチャットボット競争に参戦–「Meta AI」など主要製品を発表
3. セレブリティビジネスのAI活用によるパーソナライズ
かつて有名人に自分の名前を呼んでもらうには多額の寄付をするか運良くイベントで指名されるしかありませんでした。少し前には「Cameo(カメオ)」のようなサービスが登場し、有名人に数万円を支払って自分に対するビデオメッセージを作成するよう「注文」できるようになりましたが、それも有名人本人が撮影できる数には限界がありました。
しかし、AIボイス・クローンの登場により、セレブリティからのメッセージビジネスは限界を突破しました。現在進行しているビジネスモデルでは、セレブリティが自分の声をAI企業にライセンス提供し、AIが数万、数十万というファンに対して「個別の呼びかけ」を生成します。「〇〇さん、昇進おめでとう!」「〇〇さん、誕生日おめでとう!」 本人の声を介したこの1対1のメッセージを簡単に作ることができるようになるのです。もちろん、受け取った側はそれがAI生成によるものだと分かっているので心から喜べるわけではないかもしれません。しかし、たとえAIが生成したメッセージだったとしても、嬉しいと感じる層は一定数存在することでしょう。
最後に:なぜ音声のプロモーションが有効なのか
今、画像や動画ではなく「声」が注目され始めています。そこには画像や動画によるプロモーションがぶち当たる壁を突破する理由があるのです。
理由①:個人にパーソナライズされた音声はユーザーの注意を瞬時に引きつけます。スクロールされるだけのバナー広告とは脳への届き方が異なります。
理由②:動画広告はユーザーが画面を見ていないとプロモーションになりませんが、音声は家事、通勤、運動といった「ながら時間」に入り込むことができます。ユーザーの生活動線のあらゆる隙間に違和感なく入り込めるメディアが音声なのです。