台湾の街を歩いていると以前は台湾に無かった見慣れない中国料理レストランが増えたことに気づきます。
螺蛳粉(タニシのピリ辛麺)、酸菜魚(酸菜と魚の鍋)、肉夾饃(中国式バーガー)、冰粉(中国式ひんやりゼリー)、梅花糕(花模様のスイーツ)、串串(四川式串料理)など、数え始めたらきりがありません。これらは元々台湾にはない中国料理であり、ここ数年で中国大陸から台湾に伝わり、現在特に台湾の若者の間で流行しています。
現在では台湾の夜市や街中で必ず見かけるようになったこれら中国グルメ。なぜこれほど台湾の若者の間で流行しているのでしょうか?今回はここ数年でこれらの中国料理が台湾で流行した理由をまとめていきます。
【目次】
近年台湾で流行している「中国グルメ」とは?
牛肉麺、小籠包、ルーローハン、マンゴーかき氷などは昔から台湾にあった台湾グルメです。しかし近年、これらとは全然違う中国グルメが台湾で流行し始めています。
例えば、螺蛳粉(タニシのピリ辛麺)は、元々は広西チワン族自治区柳州市発祥のローカルグルメであり、以前は台湾には全く無かったものです。2020年くらいから台湾で流行り出しました。ほか、酸菜魚(酸菜と魚の鍋)は、重慶江津県の川辺の農村で生まれたと言われる魚料理です。これも以前は台湾には無く、同じく2020年くらいから急に台湾で普及し始めました。
このように以前は中国国内で食べられていた中国地方料理が台湾でも普及し始めているのです。他の国に例えて言うなら、イギリスの片田舎の郷土料理がアメリカ全土で流行っているといった具合でしょうか。不思議な現象に思えますが、現代はSNSで瞬時に情報が伝わります。以下で詳細を述べていきます。

螺蛳粉(タニシのピリ辛麺)

酸菜魚(酸菜と魚の鍋)

肉夾饃(中国式バーガー)

冰粉(中国式ひんやりゼリー)
台湾のグルメ系YouTuberが語る「台湾で中国グルメが増えた理由」
中国グルメを紹介するYouTubeチャンネル「阿臉呷跨賣」の阿臉さんは、現在台湾で流行っている中国グルメには3つの特徴があると述べています。1つ目は「食材がシンプルで調理しやすいこと(本場の味が再現しやすい)」、2つ目は「台湾料理と中国料理には共通点が多く、台湾人の味覚にある程度合っていること」、そして3つ目は「見た目にインパクトがあり、SNS上での拡散力があること」です。これらの中国グルメの顧客層は主に25歳以下〜30歳以下の若者で、ほとんどがSNSの影響を受けているといいます。
台湾夜市の屋台オーナーが語る「台湾で中国グルメが増えた理由」
台湾メディア「商業週刊」は、台北の饒河夜市で流行りの中国グルメ屋台のオーナーに話を聞きました。
どの屋台のオーナーも近年の中国グルメの流行はTikTokや小紅書(RED)と関係していると語ります。梅花糕を売る店主・阿鴻さんは「ほとんどの台湾人は梅花糕を見たことも聞いたこともないけど、TikTokや小紅書で知ってここの屋台を訪れるんです」と語りました。
また、肉夾饃を販売する店主・柏安さんは、台湾の夜市で中国グルメが増えていることを実感しており、その理由について「中国の食べ物は味が濃くて独特だから流行りやすいのでは」と分析しています。饒河夜市には、肉夾饃の店だけで3軒あり、他にも重慶烤魚(重慶風焼き魚)、冰粉(中国式ひんやりデザート)、串串(四川式串料理)などの中国グルメの屋台があると話します。
中国グルメは単なる流行か?それとも文化的浸透か?政治的意図を警戒する台湾のネットユーザー
こうした中国グルメのブームは台湾のSNS「Dcard」でも議論の的となっており、多くのネットユーザーは「美味しければそれでいい、政治とは関係ない」と考えています。
しかし一部の台湾人ネットユーザーは「最近は台湾でもTikTokや小紅書など中国のSNSを使う人が増えている。こうしたSNSを通して台湾は中国の流行や文化の影響を受けている。」と述べ、「問題は食べ物ではなく、文化そのものの浸透だ。」と指摘しています。
また、なかには中国グルメ紹介動画の中で「中国人」というワードが強調されていたり、民族主義的な主張が多く見られる箇所も多々あり、多くの台湾人ネットユーザーが「これは中台統一のための認知戦(※)の一つなのではないか?」と感じているようです。
またある台湾人ネットユーザーは「人々は生活と政治を切り離して考えている。食べ物は中立的な文化交流のひとつだ」としながらも、「TikTokや小紅書が中国グルメブームを醸成していることを考えると、我々はメディアリテラシーを養う必要がある」とも語っています。「自分でネット上の情報の良し悪しを判断できればそれは交流です。でも、もし判断できなければそれは“侵略”となるかもしれません。」と警鐘を鳴らしています。
※認知戦・・・世論を変えるための心理戦術
最後に
台湾は中国由来の物への警戒感が非常に高いです。例えば中国スマホ一つにしても「情報が抜かれるのが怖い」と敬遠する台湾人は非常に多いです。
ただ、中国と台湾は言語が同じですし、文化もほぼ同じで、歴史的な関わりも非常に強いです。台湾人は中国を最も警戒しているけれども、中国のことを世界で最も理解しており、文化的にも違和感なく受け入れることができるのは間違いありません。台湾ではこうした微妙なバランスの上で中国グルメや中国ドラマが流行しているのです。