米国では2025年1月よりトランプ政権が発足しており、トランプ大統領はすでに様々な政策を実行しています。
ここでは連日のように話題に挙がっているトランプの関税政策について、台湾視点で台湾に対してどのような影響があるのかをまとめました。
【目次】
トランプはなぜ関税を課すのか?
トランプは主に以下三つの目的で関税を課すと言われています。
① 交渉の切り札として
トランプ政権は、カナダやメキシコに対して麻薬・犯罪・移民対策の強化や中国へのフェンタニル(違法薬物)規制の要請をする際に、関税を圧力手段として利用する考えです。
② 貿易赤字の是正
アメリカの貿易赤字を縮小する手段として関税を活用しようとしています。
③ アメリカの財政基盤強化
米国は現在財政赤字が深刻化しており、外国に関税を課すことで国内の財政赤字を削減するという狙いがあります。また、関税収入を得る代わりに法人税率(15%)を引き下げるという狙いもあるようです。
関税の具体例
当初、カナダに対し25%(エネルギー製品に関しては10%)、メキシコに対し25%、中国に対し10%(既存の関税に上乗せ)を課税すると発表していましたが、カナダとメキシコに関しては麻薬密輸や移民の問題への対応を要求する代わりに関税は見送られました。上でも述べた通り、トランプ政権にとって関税は交渉の手段であり、必ずしも実行されるとは限らないのです。(中国の10%は見送りなし)
ただ、上記3カ国以外の貿易赤字国に対しては、貿易赤字を是正しアメリカの財政基盤を強化する目的で「相互関税」を課すと言われています。例えば、日本は2024年の米国の貿易赤字の七位、輸入額で五位であることから、相互関税の対象となる可能性が高いです。具体的には、日本が米国に対し高い関税をかけている牛肉、果物、穀物などの農産物、非関税障壁が問題視されている自動車などが関税の対象になると考えられています。
では、台湾に対してはどうでしょうか?以下で、米国の台湾に対する貿易赤字額、台湾から米国への輸出品、関税の影響などを確認していきましょう。
参考資料:トランプ相互関税導入へ:非関税障壁も対象となり日本の対米輸出自動車に追加関税の可能性も
台湾は米国にとって6番目に大きな貿易赤字国
2024年のアメリカの対台湾貿易赤字は670億ドルに達し、アメリカにとって6番目に大きな貿易赤字の相手国となっています。
台湾に対する相互関税とその影響
米国のジョージ・ワシントン大学講師である郭哲瑋氏は、「相互関税」とは「相手国が課す税率と同じ税率を課すもの」であり、台湾の対米輸出は電子製品が主流だが、近年台湾は米国からの同様の製品にほとんど関税を課していないため影響は限定的だと述べました。
また、郭哲瑋氏は「台湾製品の特性を考慮すると、関税を課すことが米国の利益に必ずしも適うとは限らず、むしろ米国の消費者に負担を強いる可能性がある」と指摘しました。台湾から米国に輸出されるものは、電子部品、電子機器の製造装置、光学機器などであり、グローバルなサプライチェーンの中で重要な役割を担っている製品ばかりです。これら台湾製品に課税することで影響を受けるのは、これら台湾製品を使用して製品を製造している米国のブランドやメーカーであり、その負担は最終的に消費者に転嫁される可能性が高いです。一方、カナダは医薬品、メキシコは農産物を米国に主に輸出しており、米国国内メーカーの製品で代替できるものばかりです。仮にカナダやメキシコに高い関税がかかったとしても、その負担が米国内の消費者に転嫁されることは考えにくいです。この点で台湾とカナダ・メキシコは状況が異なるため、台湾に高い関税が課せられる可能性は低いと考えられます。
台湾の半導体産業への影響
トランプ政権は、台湾の半導体、特にTSMC(台湾積体電路製造)のチップに対し最大100%の関税を課す可能性があると示唆しています。
しかし、上述したようにTSMCの製品は代替が効かず、特に「DeepSeek」の登場によってAI技術がクラウドからエッジデバイスへと急速に普及する中TSMCはむしろ恩恵を受ける立場にあるため、TSMCの製品は市場で独占的な地位にあり、TSMC側が価格決定権を持っています。したがって、TSMCの半導体に対する関税が高くなればなるほどアメリカの輸入業者のコストが増加し最終的には国内の消費者に転嫁され、インフレ圧力が高まり、さらにアメリカのAI分野における競争力に深刻な影響を与える可能性があります。このため、半導体への関税に関しても実行が難しいと考えられます。
参考資料:川普提出的對等關稅是什麼?對台灣可能有4個影響!【川普政策整理】
関税が台湾に与えるその他の影響
ベトナムは台湾企業の紡績・製靴産業にとって重要な海外生産拠点です。また、近年では台湾の大手ハイテク企業によるベトナムへの投資比率も年々増加しています。そんな中、ベトナムがアメリカの課税対象リストの第一弾に含まれたとの情報が伝えられ、台湾の産業界に波紋を呼んでいます。
紡績業界の関係者によると、台湾の紡績・繊維業界はすでに対応策を講じており、業績への影響は軽微と見られます。一方で、ベトナムでの生産比率が高い製靴業界は短期的な業績への影響を懸念しており、リスク分散のために他国への生産拠点の移転を加速させる構えです。ハイテク産業については、今後の動向を慎重に見極める方針を取っています。