現在アメリカとイスラエルからの攻撃を受けたイランによって、ホルムズ海峡は事実上封鎖されています。この海峡は世界の石油供給量の約20%が通過すると言われており、日本をはじめとする多くの国のエネルギー需要を支えています。もちろん台湾も例外ではなく、多くのエネルギーを中東に依存しています。
というわけで今回は、現時点での台湾への影響や台湾で今後影響が出ると思われる業界などについてまとめました。
【目次】
はじめに:台湾はどの程度のエネルギーを中東に依存しているのか?
台湾のエネルギー輸入依存度は95%を超えており、原油の約68%を中東11カ国からの供給に頼っています。また、台湾の対中東貿易の割合は、輸出が0.7%と低い一方、輸入は5.1%を占めています。昨年は台湾の輸出企業の275社以上、台湾の輸入企業の138社以上がホルムズ海峡の航路に依存していました。現在台湾企業は海峡封鎖の影響で資金繰りの悪化、支払いの遅延、生産停止のリスクにさらされています。そして、そうした物流の問題だけでなく、企業の信用リスクを増大させ、資金調達をより困難にしているという報告もあります。
現在、台湾ではどのくらいコストが上がっているのか?
今回のホルムズ海峡閉鎖により台湾では様々なものの価格が上昇しています。
-
原油の「上乗せ価格(プレミアム)」: プレミアム価格(中東から優先的に原油を回してもらうための手数料のようなもの)が4月の1バレルあたり2.5ドルから、5月には19.5ドルへと、わずか1ヶ月で約8倍に跳ね上がります。
-
台湾国内のガソリン価格: 本来であれば大幅な値上げになるはずですが、台湾政府が「物価安定」のために価格を凍結・抑制しています。そのため、石油最大手の台塑石化などは、本来利益になるはずの20億台湾ドル(約95億円)以上を自社で負担して価格を無理やり抑えている状態です。
-
海運(コンテナ船): ホルムズ海峡を避けてアフリカ回りのルートを通るため、運賃は紛争前と比較して10倍以上になっています。さらに、1コンテナごとに数千ドルの「戦争リスク附加費(追加料金)」が上乗せされています。
-
空運(飛行機): 危ない空域を避けるための遠回りと燃料高により、航空貨物の運賃は前年比で45%〜75%上昇しています。
-
アスファルト(道路の材料): 原油不足の影響を最も受けており、台湾全土で価格が上がっています。
→北部約14%増、中部約10%増、南部約16%増、東部約13%増 -
プラスチック・化学原料: これらを作る工場の稼働率が原料不足で30%程度まで落ち込んでいるため、市場に出回る材料が減り、じわじわと製品価格を押し上げています。
今後、影響が出る業界
-
建設・インフラ業界: 道路の舗装に欠かせないアスファルトの価格高騰(最大16%増)は、公共事業や道路工事のコストにダイレクトに影響します。すでに予算が決まっている工事では材料費の上昇によって計画の見直しや工期の遅れが避けられない状況です。不足分を補うために多額の税金を追加投入せざるを得なくなれば、本来他の行政サービスに使われるはずだった予算が削られるなど社会インフラ全体に深刻な影を落とすことになります。
-
IT・ハイテク産業: 台湾の経済を支える半導体や電子部品は多くが航空便で世界中へ運ばれています。しかし、空運コストが最大75%も上昇したことで、製品一つあたりの利益が大きく削り取られています。企業にとっては「注文はあるのに運賃が高すぎて運べば運ぶほど赤字になる」、あるいは「物が市場に届かない」という非常に厳しい状況に直面しており、これが続けば企業の業績や株価にも大きな悪影響を及ぼすと思われます。
-
外食・小売業界(プラスチック依存): 台湾の石油化学工場の稼働率は3割まで落ち込んでおり、外食や小売業界にも影響を与える可能性が出てきています。お弁当の容器、飲み物のカップ、レジ袋などのプラスチック製品が不足すると言われています。特に、台湾では屋台やテイクアウトの文化が深く根付いているため、包装材の供給不足や価格高騰は飲食店の経営に大きな影響を与えます。最終的には、お弁当代やドリンク代に「容器代」が上乗せされ、消費者に負担が回ってくる可能性が高いです。
台湾政府の「ガマン」はいつまで続くか
現在、台湾政府は石油会社に巨額の赤字を肩代わりさせることでガソリン価格を無理やり抑え込んでいます。しかし、これはあくまで「一時的な止血」に過ぎない緊急処置です。 中東での戦争がこのまま数ヶ月、あるいはそれ以上長引けば、石油会社の体力も政府の財政も限界を迎えます。そうなれば、これまで抑えられてきた歪みが一気に噴出し、ガソリン代だけでなく、生活の根幹である「電気代」や「ガス代」の爆発的な値上げが押し寄せてくるリスクがあります。
解決策はあるのか?台湾が歩むべき道
-
エネルギーの多角化: 今回の危機で浮き彫りになったのは、「中東依存」の危うさです。特定の地域に依存しすぎないよう、アメリカやオーストラリアといった比較的安定した国々からの調達ルートを急いで確保しエネルギーの仕入れ先をバラけさせることが国家存亡の鍵となります。
-
物流の再設計: これまでの「安くて、早くて、当たり前」だった物流ルートが、地政学的な火種一つで簡単に壊れてしまうことになりました。企業にはコスト管理だけでなくいかに複数の輸送ルートを確保しトラブルに備えるかという「リスク管理能力」が求められています。これからの時代、危機を予測し、素早く動ける企業こそが、生き残る強さを持つことになるでしょう。
【参考資料】
中東情勢衝擊瀝青價格 陳金德:原料柏油供應沒問題(中東情勢の影響でアスファルト価格がピンチ/中央社)